相続とは?
ある方が亡くなると、その方の財産の全ては、相続人のものとなります。これが「相続」です。
相続するのは全財産ですので、プラスの財産も、マイナスの財産も、全て引き継ぐこととなります。
<プラス財産の例>
- 現金、預貯金、自動車、家財道具等の動産
- 自宅や山林等の不動産
- 株式等の有価証券
- 損害賠償請求権等の裁判上の地位
<マイナス財産の例>
- 住宅ローン等の借入金
- 亡くなった方が売り渡した動産・不動産等の引き渡し債務
誰が相続人になるの?
相続人は法律で決まっており、これを「法定相続人」といいます。
また、法定相続人には順位があり、法律で定められた順番で相続人を決めていきます。
<相続人の順位の例>
A.配偶者は常に相続人になります。
B.配偶者以外の相続人は次の順位で決まります。
①子がいる場合、子も相続人となります。
②子が先に死亡しており、孫がいる場合、子の代わりに孫が相続人となります。
③子も孫もおらず(死亡含む)、父母が生存している場合、父母が相続人となります。
④子も孫もおらず(死亡含む)、父母も祖父母も死亡している場合、兄弟姉妹が相続人となります。
※配偶者がいない場合(死亡含む)は、Bの人だけが相続人になります。
相続の割合は?
相続人が相続する遺産の割合も法律で決まっており、これを「法定相続分」といいます。
<法定相続分の例>
- 配偶者と子1名の場合→配偶者1:子1
- 配偶者と子2名の場合→配偶者2:子1:子1
- 配偶者と孫1名の場合→配偶者1:孫1
- 配偶者と母の場合→配偶者2:母1
- 配偶者と兄の場合→配偶者3:兄1
相続開始からの手続きの流れは?
相続が開始した日(亡くなった日)から様々な手続きを行う必要が生じます。
主なものは、次のようなものが挙げられます。
- 通夜、葬儀、法要の手配
- 死亡届の提出(7日以内)
- 年金受給停止(速やかに)
- 後期高齢者医療、国民健康保険、介護保険資格喪失届(14日以内)
- 遺言書の検認申立(相続開始後遅滞なく、家庭裁判所に申立)
- 相続人の調査、確定
- 相続財産の調査、確定
- 相続放棄または限定承認の申述(3ヶ月以内に、家庭裁判所に申述)
- 亡くなった方の所得税の準確定申告及び納付(4ヶ月以内)
- 遺産分割協議書の作成
- 電話加入権、公共料金などの名義変更(相続確定後、速やかに)
- 自動車の所有権移転(相続確定後、15日以内)
- 生命保険金の請求
- 国民年金の死亡一時金、国民健康保険加入者の葬祭費など交付金の請求
- 預貯金口座の名義変更または解約
- 不動産の相続登記(2024年4月1日より義務化)
- 株式など有価証券の名義変更、ゴルフ会員権などの相続の届出
- 相続税の申告及び納付(10ヶ月以内)
遺産分割
遺産分割とは、相続人全員の間で、法定相続分とは異なる割合で相続財産を分け合う合意をすることをいいます。これは相続人全員で行わないと無効となってしまうので、誰かを除外して遺産分割を行うことはできません。
遺産分割は相続人間で話し合って行うのが基本ですが、話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に調停(裁判所での話し合い)を申し立てることもできます。
遺産分割の方法は、主に4種類あります。
現物分割
不動産や現金を、文字通り、物理的に分け合う方法です。
換価分割
遺産の全部または一部を売却して現金化し、その現金を分け合う方法です。
代償分割
相続人の一部が遺産を相続する代わりに、他の相続人に代償として金銭等を支払う方法です。
共 有
不動産等を、相続人が共有名義で相続する方法です。
【預貯金の払戻し制度 (2019.7.1〜)】
亡くなった方の預貯金について、まだ遺産分割が済んでいない場合であっても、相続開始時の預貯金(口座ごと)の残高の3分の1に、法定相続分を乗じた額(同一金融機関では150万円が上限)については、払戻しをすることができます。この場合、払戻しを受けた金額については、その相続人が遺産分割により取得したものとみなされます。相続人の当面の必要生計費や葬式費用に充てるため、遺産分割の話し合いが終わっていなくても、一定の金銭の取得を認めたものです。
配偶者居住権(2020.4.1〜)
配偶者居住権とは、相続開始時において、遺産である建物(自宅など)に居住していた配偶者が、遺産分割または遺贈により配偶者居住権を取得した場合は、無償でその建物を使用収益することができる制度です。配偶者居住権の期間(住み続けられる期間)は、遺産分割協議または遺言で特に期間の定めをしなければ、配偶者の「終身」の間です。ただし、その建物に、当該配偶者以外の共有者がいる場合は、配偶者居住権は認められません。
配偶者居住権は、所有権とは区別されます。すなわち、建物の所有権は子が取得し、配偶者は居住権を取得することで、子の所有する建物に住み続けることが可能になったということです。所有権の登記とは別に、配偶者居住権の登記も可能です。登記をすることで、居住権を守ることができます。
配偶者居住権も一種の財産権(賃借権のような権利)なので、遺産分割の際には、配偶者居住権の経済的な価値を算定し、その額を配偶者が取得したものと考えます。
また、上記の配偶者居住権を取得できなくても、相続開始から一定期間、自宅建物を無償で使用できる配偶者短期居住権という制度もあります。
遺言
あまり知られていませんが、遺言には、法律で定められた方式があり、この方式に従って遺言を作らないと、せっかくの遺言が無効となってしまうので注意が必要です。
遺言の方式には、主に2種類あります。
公正証書遺言
遺言者が、公証人に遺言の内容を口述し、公証人が作成してくれる方式です。公証人は全国の公証役場におり、どこの公証役場でも作成が可能です。
公証人が作成するため、様式の不備や誤字脱字などの心配は少なく、遺言者の持つ遺言書の正本とは別に、公証役場でも遺言書を保管してくれるので、紛失の心配も無く、また偽造の恐れも少なく安心です。遺言者の死亡後に家庭裁判所で検認を行う必要もありません。しかし、公証役場での作成時に証人が2名必要であり、公証人の手数料もかかります。
自筆証書遺言
遺言者が、遺言の全文・日付・氏名を自書し、これに押印して作成する方式です。「自書」すなわち手書きなので、原則としてパソコンなどで作成することはできません。
基本的に自書だけで作成できるので、いつでもどこでも作成できるお手軽な方式ですが、日付が抜けていたり、誤字脱字があったりすると、遺言として使えなくなる可能性があり、紛失・偽造の恐れもあります。
また、遺言者が死亡した後に相続人が家庭裁判所で「検認」という手続きを行わなくてはならないため、相続人にとっては事務的な負担が増します。
【自筆証書遺言の方式緩和(2019.1.13〜)】
上記のとおり、原則は全文手書きですが、相続財産の目録を添付する形式で作成する場合は、その目録のみ自書を要しません。すなわち、パソコンで作成したり、不動産の登記事項証明書のコピーを添付することができます。この場合は、目録の全ページに署名・押印が必要となります。
【自筆証書遺言の保管制度 (2020.7.10〜)】
上記のとおり、今までの自筆証書遺言は、遺言者が原則手書きで作成して、自ら保管し、遺言者の死亡後に相続人が裁判所で検認を行うという手続きの遺言でしたが、新たに、法務局による自筆証書遺言の保管制度ができました。
遺言者の住所地・本籍地・所有不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局(遺言書保管所)に遺言者が自ら出頭して、保管の申請を行うことができます。遺言書は法務局で画像データとしても保存され、遺言者の死亡後であれば、相続人は法務局で遺言書情報証明書という遺言書の画像データなどが記録された証明書が取得できます。相続人がこの証明を請求したり、遺言書の閲覧請求をすると、法務局から各相続人に遺言書を保管していますよという通知が送られますので、遺言書の存在を知らない他の相続人も遺言書の存在を知ることができます。また、保管をやめたいときは、いつでも保管の撤回をして、遺言書を返してもらうことも可能です。
そして、保管制度の利用により何よりも大きく変わるのは、「自筆証書遺言なのに、検認が不要となる!」という点です。
遺留分(2019.7.1〜改正)
上記の遺言と密接に関係するものに、「遺留分」というものがあります。遺留分とは、法定相続人のうち、配偶者・子・父母など(遺留分権利者)に、最低限これだけの割合は相続していいですよと法律が認めた割合のことです。兄弟姉妹には遺留分はありません。
例えば、親族とは長らく疎遠であったため、生前とてもお世話になった知人に財産の全てを譲るという内容の遺言を残したとしても、遺留分権利者が遺留分を主張すると、財産をもらった知人は、遺留分権利者に対し、相続財産のうちある一定の割合(遺留分侵害額)を金銭で支払う必要があります。ただし、遺留分は自動的に認められるものではないので、遺留分を主張できる人が一定期間特に主張をしてこない場合は、遺言の内容どおりに相続を行うことができます。
遺言書を作成する際は、遺留分にも十分気を付けて作成する必要がありますので、ご注意下さい。
<遺留分の例>
- 相続人が父母のみ→遺産の3分の1×法定相続分
- 上記以外→遺産の2分の1×法定相続分(相続人が配偶者のみ、配偶者と子、配偶者と父母etc.)
単純承認・相続放棄・限定承認
相続が開始すると、相続人は次の3つの選択肢の中から、相続についての選択をしなくてはなりません。
単純承認
相続財産の全てを、単純に相続すること。
相続放棄
相続財産の全てを放棄し、相続人としての地位を失うこと。
限定承認
相続財産の中からマイナス財産を清算し、プラス財産が残ればそれを相続すること。
この選択は、相続が開始してから3ヶ月以内に行わなくてはなりません。ただし、単純承認の場合は、何事もなく3ヶ月が過ぎると単純承認したものとみなされるので、特に手続きをする必要はありません。一方、相続放棄・限定承認については、相続が開始したことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申述を行う必要がありますので要注意です。
ちなみに、相続財産が非常に多く財産の調査に時間がかかっている場合など、承認するか放棄するかの判断をするのに3ヶ月では足りないという場合には、家庭裁判所に期間を伸ばしてもらうこともできます。
特別受益
共同相続人の中に、亡くなった方から生前贈与や遺贈(特別受益)を受けた人がいる場合、その人は相続財産の前渡しを受けたものと考えられ、これを考慮して相続分が計算されます。
<特別受益がある場合の相続分の計算例>
例えば、父・母・長男・次男の4人家族で、父が亡くなったとします。遺産は3000万円でした。長男は生前にマイホームの頭金として父から600万円をもらっていたとします。
法定相続分は、母4分の2、長男4分の1、次男4分の1です。
遺産3000万円+生前贈与600万円=3600万円が相続財産とみなされます。
3600万円をもとに法定相続分を計算してみると、
母 3600万円×4分の2=1800万円
長男 3600万円×4分の1=900万円
次男 3600万円×4分の1=900万円です。
しかし、長男は既に生前贈与で600万円もらっているので、
900万円-600万円=300万円が実際の相続分となります。
結果、実際の相続分は、母1800万円、長男300万円、次男900万円(合計3000万円)となるわけです。
【持戻し免除の意思表示の推定(2019.7.1〜)】
なお、婚姻期間が20年以上の夫婦間において、夫婦の一方が他方に対して居住用の建物・その敷地を生前贈与または遺贈したときは、この贈与は特別受益にならず(上記の長男のように前渡しされた金額を取り分から差し引かなくて良い、ということ)、当該建物・その敷地は遺産から除外して、これ以外の遺産を共同相続人間で分け合うことになります。
そして、婚姻期間が20年以上であれば、夫婦の一方が他方に対して、配偶者居住権を遺贈した場合にも、この持戻し免除の意思表示の推定がされる点に注意が必要です。
寄与分
共同相続人の中に、亡くなった方の事業に関する労務の提供または財産上の給付、療養看護その他の方法により、財産の維持または増加に特別の寄与(貢献)をした人(寄与者)がいるときは、共同相続人の協議により、相続財産の中からその人の寄与分を定めることができます。寄与分制度は、共同相続人間の公平を保つことを図る制度と言えます。
具体的には、相続財産の中から、まず寄与者に取得させる寄与分を定め、これを除いた相続財産を通常どおりに共同相続人間で分け合うという方法です。寄与者は、寄与分+相続分をもらえることになります。
遺産分割の場合と同じく、協議が整わない場合は、家庭裁判所に決めてもらうこともできます。
【特別の寄与(2019.7.1〜)】
なお、通常の寄与分は「共同相続人」でないと認められませんが、共同相続人にはならない親族であっても、無償で療養看護その他の労務の提供により、財産の維持または増加に特別の寄与をしたのであれば、「特別寄与者」として、相続人に対し、寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)を請求できます。例えば、父が亡くなり、母と長男が相続人である場合、長男の妻は相続人にはなりません。どんなに亡き父(義父)の療養看護などを行い、財産の維持などに貢献したとしても、相続人として財産をもらうことはできません。そのような長男の妻にも、特別に財産をもらう権利をあげよう、というのがこの制度です。
欠格・廃除
欠格
欠格とは、共同相続人の中に、被相続人(亡くなった方)または自分より先順位もしくは同順位の相続人を殺害したり、殺害しようとした人がいる場合に、その人の相続人としての地位を奪う制度です。他の欠格事由としては、被相続人が殺害されたことを知りながら告訴しなかった場合や、詐欺または強迫によって被相続人に遺言を書かせたり、書かせなかったりした場合や、遺言書を偽造したり破棄または隠匿した場合などがあります。殺害うんぬんは相続人としての地位を失うのは当然と思われるでしょうが、遺言書を隠しただけでも欠格となるので、安易にそのような行動を取らないようにお気を付け下さい。
廃除
廃除とは、遺留分を有する推定相続人(前掲「遺留分」をご参照下さい)が、被相続人に対して虐待や重大な侮辱を加えた場合や、著しい非行があった場合に、被相続人が生前に家庭裁判所に申し立てて、その推定相続人を相続人から外してもらう制度です。欠格と異なるのは、欠格は欠格事由に該当すれば当然に相続人でなくなるのに対し、廃除は被相続人が家庭裁判所に申し立てをする必要があるという点です。
廃除が、「遺留分を有する」推定相続人に限定されているのは、遺留分を有しない推定相続人(兄弟姉妹)に対しては、遺言で相続分をあげないことができますが、遺留分を有する推定相続人に対しては、遺言で相続分をあげないこととしても、遺留分を主張されて、結果相続分を取られてしまう可能性があるからです。このような推定相続人を相続人から除外するのに、廃除の制度を利用できます。