これも遺言書?

以前ご依頼頂いた事案を紹介します。

Aさん(80歳代)は旦那さんを数年前に亡くされましたが、旦那さん名義の建物(現在は空き家)の相続登記をしていませんでした。
Aさんご夫婦には子供がいないため、旦那さんの相続人は、妻であるAさんと、旦那さんの兄弟です。

Aさんは、できればこの建物は空き家なので売却したいと思っており、その前提として相続登記が必要であるため、一度司法書士に依頼をしたことがあるそうです。
しかし、そのときは兄弟が手続きに協力してくれず、相続登記ができずにそのままになっていたということでした。

その後数年が経ち、やはり相続登記を進めたいということで、当事務所へご相談に来られたのでした。

ご相談をしている最中、旦那さんが残された書類など、持参された資料を机の上に広げたとき、何気なくAさんが古びた旅行会社の封筒を手に取り、「夫はとてもいい人で、亡くなる前に、(遺産は)全部私にって、病室でこんなものを書いてくれたんですけどね。兄弟が首を縦に振ってくれないと、手続きができないなんてね。」と仰るので、それを拝見すると、そこには震える文字で【私○○は妻○○に財産(家位しかない)あげます】と封筒の余白に記されており、日付と押印もありました。
「!!!」
これは自筆証書遺言として使える可能性が高いです!とAさんに伝え、すぐに管轄法務局へ照会したところ、法務局の回答は遺言書として使えるとの見解でした。

Aさんに遺言があるので、今回は兄弟の関与なく、相続登記ができる旨をお伝えすると、大変喜んで頂き、後日、家庭裁判所へ遺言書の検認手続き(自筆の遺言の場合に必要な手続き)を行い、その後、無事に相続登記も完了しました。Aさんを長年苦しめていた相続問題を解決することができ、私も非常に嬉しく思いました。

今回のポイントは、<封筒に走り書きしたようなものでも、民法の要件を満たしていれば、有効な遺言書となる!>ということです。

Aさんもまさか封筒が遺言書になるとは思っていなかったようですが、この封筒に気付かなければ、兄弟との話し合いをするしかなく、どうのような結末になっていたか分かりません。

ちなみに、今回の遺言書の本文や形式が、遺言として有効であるか、実は多少の疑義があったので、法務局へ照会しました。
今回は大丈夫でしたが、遺言書の書き方や形式には決まりがありますので、遺言として無効になるかどうかは紙一重の部分もあります。実際に、残念ながら遺言として使えないというケースも見てきました。

遺言書を作成する際には、その遺言書が法律の求める要件を満たし、ちゃんと使える遺言書になるよう、専門家にご相談されることをお勧めします。

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